
性暴力に関するよくある誤解
ここでは、性暴力に関するよくある誤解を紹介します。
英語では、よく「性暴力神話」(sexual violence myths)と呼ばれています。
性暴力について正しい知識を身につけることは性暴力撲滅と、
被害者が前向きに生きられる社会を実現するための一歩となります。
神話① 夜遅くに見知らぬ人に突然襲われることが多い。
レイプ(※)の約88%が、知っている人(家族、友人、職場の同僚・先輩、塾や習い事関係の人など)からのもので、全く知らない人からのレイプは僅か11.6%となっています。そして、警察に相談した人はわずか3.7%です。(1)
また、2015年度に都内で発生したレイプ事件のうち、約58.1%が住宅(一戸建て・中高層・その他の住宅)で発生し、次いでモーテル・ラブホテル、一般ホテル・旅館での発生が14%となっています(2)。普段は「安全な場所」として知っているところでレイプが起こっているのです。
知らない人に夜襲われることを前提とした「危険だから夜は出歩くな」のような忠告は的外れです。性被害を増やさないためには、忠告は被害者に対してではなく、加害者に向ける必要があります。なぜ、被害者にならないために行動や自由を制限されなければならないのでしょうか。
※ 内閣府の調査では、「無理やり性交等(性交、肛門性交、口腔性交)をされた経験」と定義されています。
(1) 平成29年度「男女間における暴力に関する調査」、内閣府男女共同参画局
(2) 「こんな時間、場所がねらわれる」、警視庁
神話② 若くて、「魅力的な」人しかレイプ性暴力に遭わない。
容姿、年代、文化、障がい、性別、セクシャリティ、人種、宗教等に関わらず、多くの人が性暴力の被害者となっています。レイプは暴力と支配欲によるもの。被害者の「魅力」はあまり関係がありません。よく、露出度が高い服装をしている人が狙われると考えられていますが、実際は逆とも言えます。加害者は、声を上げなさそうな、大人しそうな人を狙うこともあります。事件発生当時に被害者がどのような服装だったのか等の質問はセカンドレイプ(※)です。
※セカンドレイプ=二次的被害。性暴力を受けた被害者が、被害を受けた後に周囲の言動によって二次的に傷つけられることを指します。例えば、相談した警察官に「その時、挑発的な服着てたんじゃないですか?」と言われたり、友達に「○○はかわいいからさ…」と言われたりすること。
神話③ 特に女性は、「その気がないふりをする」ことや、
本当は「YES」なのに「NO」と言うことがある。
誰もが、性的行為にNOと言う権利があります。そして、人の気が変わることは自然なことです。途中で気が変わって「NO」と言ったら、相手には行為を止める義務があります。止めない場合は、性暴力です。相手の言葉を尊重し、きちんとコミュニケーションをとりながらの性的行為が一番です。
神話④ 過去にセックスをしたことがあったら、
同じ人とまたセックスをしてよい。
例え過去にその人とセックスをしたことがあっても、その人と過去に付き合った事があったとしても、それは同意を意味しません。同意はセックスに臨む都度にとらなくてはいけません。常に、お互いが望んでいることなのか、その都度同意を得ることが必要です。
神話⑤ お酒、薬物、ストレスが人を性暴力加害者にすることがある。
お酒や薬物は、レイプや性的暴行の原因ではありません。犯罪を犯しているのは犯人(人間)であり、お酒や薬物ではありません。お酒や薬物のせいにするのは、ただの言い訳にすぎないのです。
神話⑥ 自ら進んで酔っぱらったり、薬物を使った人は、
レイプされても文句を言えない立ち場にいる。
同意とは、自ら自由な決定ができ、かつ自由に意志を示せる状態でしか得られません。意識を失っていたり、お酒や薬物によって無能力になっている人は、セックスに同意出来ません。よって、そのような状況にある人とセックスに及ぶことは、レイプとなります。一切の責任が、加害者にあります。
神話⑦ 物理的に強要されて、それを証拠付ける怪我がないとレイプじゃない。
レイプ被害者は、内部的・外部的な怪我を受ける人もいれば、受けない人もいます。加害者は、武器を使ったり暴力的な恐喝をするときもあれば、同意出来ない状態を利用することもあります(意識を失っている人や、地位関係性の利用等)。レイプを受けた多くの被害者が、ショックや恐怖から動けなかったり、声を上げられなかったりします。目に見える怪我などの「証拠」がないからといって、レイプされていないとは言えません。
神話⑧ ○○の人種の人や、
一定のバックグラウンドを持った人がレイプを犯しやすい。
「典型的」なレイプ犯は存在しません。レイプ犯は、様々な経済的・社会的バックグラウンド、人種、年齢の人です。
神話⑨ 性的に興奮したら、セックスしないとその衝動が治まらない。
人間は、性的衝動をコントロールすることが出来ます。性的衝動を抑えるために、レイプする必要はありません。レイプは、支配欲に基づく暴力です。根幹にあるのは、性欲だけではありません。
神話⑩ セックスしたことを後悔したり、注目を集めるためや腹いせに、レイプされたと嘘をつく人が多い。
メディアがこのような問題に重点を置いているため、あたかもレイプの冤罪が多いように人々に伝わってしまいます。大半のレイプ被害者は、警察にすら通報しません。レイプ被害者で警察に相談した人はわずか3.7%です。(3) また、誰にも相談しなかった人は、56.1%です。言っても信じてもらえないから、と思ってしまうからです。
(3) 平成29年度「男女間における暴力に関する調査」、内閣府男女共同参画局
神話⑪ 男性はレイプされない。女性は性暴力の加害者になることはない。
多くの性的暴行やレイプは、男性によって女性や子どもに対して犯されているものが多いです。しかし、女性が性的暴行やレイプを犯さないということではありません。多くの場合、女性によって性的暴行やレイプの被害に遭った被害者は、「信じてもらえない」と思ったり、「男性にレイプされるよりましだ」と思われないかと恐れ、通報しません。平成29年度の内閣府の調査では、1.5%の男性が無理やり性交等(性交、肛門性交、口腔性交)をされた経験があると答えています。そして、その中で警察に相談した人はわずか8.7%、誰にも相談しなかった人は39.1%となっています。(4)
(4) 平成29年度「男女間における暴力に関する調査」、内閣府男女共同参画局
神話⑫ レイプ加害者は異常な人が多い。
この神話は、「モンスター神話」(monster myth)と呼ばれています。これは、レイプ加害者について「あんなに良い人だったのに」、「あんなに普通な人だったのに」という驚きの声に表れています。レイプは、「ごく普通の」人、そして多くの場合、被害者の知り合い(安心できる存在の人である場合も)が犯す犯罪です。
神話⑬ レイプは、稀な事件である。
「男女間における暴力に関する調査」(平成29年度)によると、無理やり性交等(性交、肛門性交、口腔性交)をされた経験がある男女は、4.9%となっています。男女別に分けると、女性が7.8%、男性が1.5%です。また、20歳代~50歳代の女性で無理やり性交等の被害経験がある人は、約10%となっています。
さらに、少し前の統計ですが、世界保健機関(WHO)の調査では、14歳以前に性的虐待を経験したことがある女性は14%、15歳以降に性暴力を経験したことがある女性は10%というデータもあります(5)。
※WHOと内閣府で結果が異なる大きな理由の一つは、レイプの定義が異なっていることだと考えられます。WHOの方が明確な定義付けをして調査を行っています。
(5) ‘Japan Fact Sheet, WHO Multi-country Study on Women’s Health and Domestic Violence against Women’, World Health Organisation
神話⑭ 夫婦間のレイプはありえない。
夫婦という関係においても、お互いに同意がなければレイプとなります。夫婦間のレイプは存在しえないという考え方は、結婚という「契約」によって永遠の同意がなされている、そして夫婦はお互いの「所有物」になる、という時代遅れな価値観に基づいています。さらに、DVの定義にも、パートナー間における性的な暴力が含まれています。
神話⑮ レイプ犯は、初めて犯行に及ぶ人が多い。
強姦の再犯率はとても高く、2015年の再犯率は51.6%。さらに、強制わいせつの再犯率は、45.8%となっています(6)。
(6) 平成27年版 犯罪白書 第6編/第2章/第6節/1、警視庁
神話⑯ 過去に性経験がある人は、
ない人に比べると被害による身体的精神的ダメージが少ない。
過去の性経験に関わらず、心も身体も傷つけるのがレイプです。レイプはセックスとかけ離れたものであり、例え性経験が豊富であっても、それは被害の「深刻さ」には一切影響しません。
神話⑰ 性犯罪の有罪率は99%
そもそも性犯罪の起訴率が低いため、有罪率99%という数字には根拠がありません。2015年の強姦の起訴率は37.2%、強制わいせつの起訴率は45.8%でした。過去の起訴率を見ても、99%に達した事は一度もありません。高くて、60〜70%台です(7)。
(7) 平成27年版 犯罪白書 第6編/第2章/第2節、警視庁